「パトリック・オーグル先生?」
眼鏡をかけた青年は、向かいに座っているロイの問いに頷いた。
普段の倉庫よりも狭いが立派な応接セットが設られた部屋だ。さすがにあの倉庫で客人を迎えるわけにはいかず、ファルマンが気を利かせて部屋を押さえてくれていた。既にテーブルの上には人数分のコーヒーまで用意されている。キャロルが手をつけていないのは、これが泥水に近い味をしているということを知っているからだ。知らず口をつけた眼鏡の青年――パトリックは、一口啜って顔を顰める。
「ああ。オーグル総合病院の外科医だ」
絞り出すようにしてそう言ったパトリックに、ロイは|傍《かたわ》らのキャロルへ目を向けてきた。同業だが、だからといって外科医全員と知り合いというわけではない。しかも軍属であるが故に民間病院には馴染みがない。
「何それ?」
「東部で一番大きい総合病院ですよ。各地から優秀な医師が集まるとかで、有名なんです」
ソファの背後で控えていたファルマンが補足する。
「ふーん?」
一応頷いてはみたが、特段興味はない。とりあえず、東部の大病院であるということくらいは認識しておけば良いか。
「オーグル……ということは、先生は」
言いかけたロイを、パトリックが辟易とした様子で引き取る。
「院長の息子にあたる」
「若先生か」
「町医者のように言うな!」
憤慨したパトリックだが、適当な表現だとは思う。
「で、その若先生が何の用で?」
構わず訊ねるロイに何か返しかけたパトリックは、だが諦めて本題を切り出す。
「軍に問い合わせをしたんだが、たらい回しにされてな。ここなら対応できる、と紹介されてきた」
「医療案件か。確かに、うちにはキャロル先生がいるが」
「よりにもよって、おまえがいるとはな……ゴドウィン」
「ん?」
不意に話を向けられ、慌てて顔を上げる。
「何だ、知り合いか。先生」
「ええ? さあ」
ロイに向かって首を振る。
「はあ!?」
「うわ、びっくりした」
急にパトリックから大声を出されて、思わず肩を震わせてしまった。
「おまえ! 中央研修で一緒だったろうが!」
そう怒鳴られても、全く心当たりがない。首を捻ったものの、全く彼が出てこなかった。
「そうだっけ?」
「覚えていないのか」
「一々覚えてないよ。それこそ、嫌味っぽいやつは尚更」
「なるほど」
先ほどハクロ准将に向けてロイが評したものと同じように言うと、思い出したのか彼はふっと笑った。
「一年前の話だろ……」
がっくりと肩を落としてパトリックが呟く。確かに中央研修は一年前に受けたが、記憶にないものは仕方がない。逆に、彼はよくキャロルのことを覚えていたものだ。
「それで、何を問い合わせしたの?」
面倒になって先を促す。一連のやり取りで少しずれてしまったのか、彼は眼鏡の位置を直してから続ける。
「最近、薬物中毒患者が搬送されてくることが多くて」
傍に置いていた鞄から、書類を取り出した。
「これは一例なんだが、どの薬物とも一致しなくてな」
「自前で薬物鑑定してるんだ?」
差し出された書類は、ロイが受け取っていた。覗き見ることもできず、とりあえず世間話のようにして訊ねる。
「軍に一々鑑定依頼をかけていたら、患者が死ぬ」
「手続きが煩雑だからな」
書類に目を落としていたロイが、そのままの体勢で呟いた。
「使えねーな、アメストリス軍」
「まったくだ」
眉根を寄せて吐き捨てると、パトリックが同調してくれた。軍に入ってから日は浅いものの、ロイの言った手続きの煩雑さは身に染みている。自分でやれば三十分で終わるような鑑定も、手続きのおかげで何日間もの時間が必要となることは日常茶飯事だ。民間病院のパトリック医師にしても、その腰の重さには辟易としているのだろう。
「君はどの立場で物を言っているのだね、キャロル先生」
ふと、書類から目を離して、ロイが面倒そうに訊ねてきた。軍批判は見逃せないといったところだろうか。上官だけに、一応釘を刺しておかなければならないのだろう。回答は慎重にしなければならないかと、少しだけ思案してから口を開く。
「医者ですよ。患者の生命保持が第一目的なもんで」
「そうか。立派な心がけだが、ここは東方司令部だぞ。発言には気を使え」
「ご忠言、痛み入ります」
恭しく頭を下げる。瞬間、ファルマンが吹き出した。むっとして振り返ると、彼は咳払いで誤魔化している最中だった。
「まったく……」
一連の流れに呆れている様子ではなく、ロイは苦笑していた。むしろ、多少だが楽しそうでもある。
「で、これは鑑定結果か? 私が見ても分からんぞ」
視線をパトリックに向けてロイが訊ねる。先ほどまで真剣に眺めていた書類の中から一枚の紙を取り出して振っていた。
「ああ。ここの前に回された部屋でもそう言われたよ。無駄足だったな」
相当歩かされたらしい。パトリックは疲れたように深いため息を吐く。仕方なく、右手を挙げた。
「あたし分かるよー」
「頼む」
ロイから渡された紙には、検査結果用紙らしく項目と数値が羅列されている。所々見慣れない項目もあるが、大まかなところでは理解できる。数例の薬品分析をまとめた表になっていた。それぞれA例、B例などと振られている。
「随分細かく調べてんだね」
あまり重要そうでない項目まできちんと調べている。感心して呟くと、パトリックは驚いたようにしてキャロルを見つめた。
「まあな。というか、薬成分なんて見てわかるのか?」
「一応、これでも医療系の錬金術師なんで。薬物は専門なんだよ」
「へえ、錬金術師……」
なるほど、と言いかけたパトリックは、慌てて身を乗り出す。
「はあ!? おまえが!?」
「そうだけど」
一年前の研修は覚えているのに、肝心なことは覚えていないのか。記憶力が良いのか悪いのか分からない男だ。
「んー?」
見覚えのある数値が示されているところで、指を止める。首を捻ると、ロイとファルマンが同時に紙を覗き込んできた。
「どうした?」
「いや、B例とC例は典型的なんだけど、このA例」
訊ねてきたロイに答え、指で指し示す。
「ほら、例の偽薬成分と一致してる」
ああ、と声を漏らしたのはファルマンだ。以前、|偽薬《ダミー》の構成成分についても彼に軽く説明したことがあった。こちらは間違いなく記憶力の良い男だ。
「なるほど、餌は完成していたわけか」
ロイがしたり顔で呟く。満遍なくばら撒いておいた偽薬が検出されたということは、解毒薬の方も同様に拡がっているということだ。だが、そうするとどうもおかしい。
「でも、こんな話うちの鑑定室からはなかったよ」
「何?」
「オーグルの患者から出てるんだから、うちの病院でもそういう患者は出てるはず」
問題は、満遍なく拡がっているとすれば軍直轄病院の方にも似たような異変は起きているはずだということだ。そういった報告はなかったし、頻繁に医局に顔を出しているもののキャロルの方でも異変は感じられなかった。すっかり考え込んでしまったロイにつられて、キャロルも黙りこむ。どういうことだろうか、一応は考えてみるが検査結果の数値の方が先に頭に入ってきてしまって上手くまとまらない。
「何だ? 話が見えないが……これは一体何の薬物なんだ?」
すっかり押し黙ってしまった二人を訝ったパトリックが訊ねる。その声で、ロイがはっと顔を上げた。
「天使の歌声だ」
「は?」
パトリックに答えたわけでなく、呟いただけだ。それでもロイからその言葉が出てきたことに、ぎょっとする。が、キャロルの憂いに構うことなくロイは立ち上がって向かいのパトリックの両肩を掴み掛かった。
「でかしたぞ、若先生。ようやく餌に食いついた」
キャロルは後ろファルマンと顔を見合わせる。部下でもない男に向かって、でかしたというのはどうなのだろうか。同じように思っていたのか、ファルマンは軽く頭を振って答えてくれた。
「何だ、偉そうに! 大体、おまえは一体誰なんだ? 僕はマスタング中佐とやらに話を」
パトリックは一気に言い募る。憤懣やるかたなし、といったところが爆発したようだった。が、その勢いに構わず平然としてロイが答える。
「ああ、私だ」
「はあ!?」
「ロイ・マスタング中佐。うちらの指揮官だよ」
勢いを殺さず返してきたパトリックに、慌ててキャロルが答える。
「このガキが!?」
「ガキ……?」
さすがに苛立ったようで、パトリックの肩を掴んでいる手に力が入っているのが見て分かる。パトリックの顔に苦痛が浮かんでくるのが見えて、慌ててロイの腕を掴んで引いた。素直にソファへ沈んでくれて、安堵する。
「一応、二十歳超えてるんですけどね……」
呟いたファルマンも、珍しく憤っているようだった。まあ、確かに上官が子供扱いをされて喜ぶ部下もいない。
「二十四だ」
付け足すようにロイが言うと、パトリックは大袈裟なくらいに驚く。
「同い年!?」
同期だが、年齢はまちまちだ。そういえば、病院研修中に最年長はキャロルより八つ上だと聞いたことがあった。彼のことだったらしい。
「それもそれで見えないね、パトリック先生」
明らかにロイよりもだいぶ年上にしか見えない。彼が若く見えるということを差し引いても、実年齢通りの容貌ではない。眼鏡のせいかとも思ったが、そういえば眼鏡をかけた同年代の軍人が知り合いにいた。彼よりも年上に見えるわけだから、眼鏡のせいではないらしい。
「老け顔だな、若先生」
「うるさい、若作り」
小声で応酬する二人に、キャロルとファルマンは同時にため息をつく。
「やめなよ……不毛だよ」
ぼそぼそと互いを貶し合う年上の男どもに、キャロルはすっかり呆れ返ってしまった。
#鋼の錬金術師 #-其の錬金術師は夜に歌う
眼鏡をかけた青年は、向かいに座っているロイの問いに頷いた。
普段の倉庫よりも狭いが立派な応接セットが設られた部屋だ。さすがにあの倉庫で客人を迎えるわけにはいかず、ファルマンが気を利かせて部屋を押さえてくれていた。既にテーブルの上には人数分のコーヒーまで用意されている。キャロルが手をつけていないのは、これが泥水に近い味をしているということを知っているからだ。知らず口をつけた眼鏡の青年――パトリックは、一口啜って顔を顰める。
「ああ。オーグル総合病院の外科医だ」
絞り出すようにしてそう言ったパトリックに、ロイは|傍《かたわ》らのキャロルへ目を向けてきた。同業だが、だからといって外科医全員と知り合いというわけではない。しかも軍属であるが故に民間病院には馴染みがない。
「何それ?」
「東部で一番大きい総合病院ですよ。各地から優秀な医師が集まるとかで、有名なんです」
ソファの背後で控えていたファルマンが補足する。
「ふーん?」
一応頷いてはみたが、特段興味はない。とりあえず、東部の大病院であるということくらいは認識しておけば良いか。
「オーグル……ということは、先生は」
言いかけたロイを、パトリックが辟易とした様子で引き取る。
「院長の息子にあたる」
「若先生か」
「町医者のように言うな!」
憤慨したパトリックだが、適当な表現だとは思う。
「で、その若先生が何の用で?」
構わず訊ねるロイに何か返しかけたパトリックは、だが諦めて本題を切り出す。
「軍に問い合わせをしたんだが、たらい回しにされてな。ここなら対応できる、と紹介されてきた」
「医療案件か。確かに、うちにはキャロル先生がいるが」
「よりにもよって、おまえがいるとはな……ゴドウィン」
「ん?」
不意に話を向けられ、慌てて顔を上げる。
「何だ、知り合いか。先生」
「ええ? さあ」
ロイに向かって首を振る。
「はあ!?」
「うわ、びっくりした」
急にパトリックから大声を出されて、思わず肩を震わせてしまった。
「おまえ! 中央研修で一緒だったろうが!」
そう怒鳴られても、全く心当たりがない。首を捻ったものの、全く彼が出てこなかった。
「そうだっけ?」
「覚えていないのか」
「一々覚えてないよ。それこそ、嫌味っぽいやつは尚更」
「なるほど」
先ほどハクロ准将に向けてロイが評したものと同じように言うと、思い出したのか彼はふっと笑った。
「一年前の話だろ……」
がっくりと肩を落としてパトリックが呟く。確かに中央研修は一年前に受けたが、記憶にないものは仕方がない。逆に、彼はよくキャロルのことを覚えていたものだ。
「それで、何を問い合わせしたの?」
面倒になって先を促す。一連のやり取りで少しずれてしまったのか、彼は眼鏡の位置を直してから続ける。
「最近、薬物中毒患者が搬送されてくることが多くて」
傍に置いていた鞄から、書類を取り出した。
「これは一例なんだが、どの薬物とも一致しなくてな」
「自前で薬物鑑定してるんだ?」
差し出された書類は、ロイが受け取っていた。覗き見ることもできず、とりあえず世間話のようにして訊ねる。
「軍に一々鑑定依頼をかけていたら、患者が死ぬ」
「手続きが煩雑だからな」
書類に目を落としていたロイが、そのままの体勢で呟いた。
「使えねーな、アメストリス軍」
「まったくだ」
眉根を寄せて吐き捨てると、パトリックが同調してくれた。軍に入ってから日は浅いものの、ロイの言った手続きの煩雑さは身に染みている。自分でやれば三十分で終わるような鑑定も、手続きのおかげで何日間もの時間が必要となることは日常茶飯事だ。民間病院のパトリック医師にしても、その腰の重さには辟易としているのだろう。
「君はどの立場で物を言っているのだね、キャロル先生」
ふと、書類から目を離して、ロイが面倒そうに訊ねてきた。軍批判は見逃せないといったところだろうか。上官だけに、一応釘を刺しておかなければならないのだろう。回答は慎重にしなければならないかと、少しだけ思案してから口を開く。
「医者ですよ。患者の生命保持が第一目的なもんで」
「そうか。立派な心がけだが、ここは東方司令部だぞ。発言には気を使え」
「ご忠言、痛み入ります」
恭しく頭を下げる。瞬間、ファルマンが吹き出した。むっとして振り返ると、彼は咳払いで誤魔化している最中だった。
「まったく……」
一連の流れに呆れている様子ではなく、ロイは苦笑していた。むしろ、多少だが楽しそうでもある。
「で、これは鑑定結果か? 私が見ても分からんぞ」
視線をパトリックに向けてロイが訊ねる。先ほどまで真剣に眺めていた書類の中から一枚の紙を取り出して振っていた。
「ああ。ここの前に回された部屋でもそう言われたよ。無駄足だったな」
相当歩かされたらしい。パトリックは疲れたように深いため息を吐く。仕方なく、右手を挙げた。
「あたし分かるよー」
「頼む」
ロイから渡された紙には、検査結果用紙らしく項目と数値が羅列されている。所々見慣れない項目もあるが、大まかなところでは理解できる。数例の薬品分析をまとめた表になっていた。それぞれA例、B例などと振られている。
「随分細かく調べてんだね」
あまり重要そうでない項目まできちんと調べている。感心して呟くと、パトリックは驚いたようにしてキャロルを見つめた。
「まあな。というか、薬成分なんて見てわかるのか?」
「一応、これでも医療系の錬金術師なんで。薬物は専門なんだよ」
「へえ、錬金術師……」
なるほど、と言いかけたパトリックは、慌てて身を乗り出す。
「はあ!? おまえが!?」
「そうだけど」
一年前の研修は覚えているのに、肝心なことは覚えていないのか。記憶力が良いのか悪いのか分からない男だ。
「んー?」
見覚えのある数値が示されているところで、指を止める。首を捻ると、ロイとファルマンが同時に紙を覗き込んできた。
「どうした?」
「いや、B例とC例は典型的なんだけど、このA例」
訊ねてきたロイに答え、指で指し示す。
「ほら、例の偽薬成分と一致してる」
ああ、と声を漏らしたのはファルマンだ。以前、|偽薬《ダミー》の構成成分についても彼に軽く説明したことがあった。こちらは間違いなく記憶力の良い男だ。
「なるほど、餌は完成していたわけか」
ロイがしたり顔で呟く。満遍なくばら撒いておいた偽薬が検出されたということは、解毒薬の方も同様に拡がっているということだ。だが、そうするとどうもおかしい。
「でも、こんな話うちの鑑定室からはなかったよ」
「何?」
「オーグルの患者から出てるんだから、うちの病院でもそういう患者は出てるはず」
問題は、満遍なく拡がっているとすれば軍直轄病院の方にも似たような異変は起きているはずだということだ。そういった報告はなかったし、頻繁に医局に顔を出しているもののキャロルの方でも異変は感じられなかった。すっかり考え込んでしまったロイにつられて、キャロルも黙りこむ。どういうことだろうか、一応は考えてみるが検査結果の数値の方が先に頭に入ってきてしまって上手くまとまらない。
「何だ? 話が見えないが……これは一体何の薬物なんだ?」
すっかり押し黙ってしまった二人を訝ったパトリックが訊ねる。その声で、ロイがはっと顔を上げた。
「天使の歌声だ」
「は?」
パトリックに答えたわけでなく、呟いただけだ。それでもロイからその言葉が出てきたことに、ぎょっとする。が、キャロルの憂いに構うことなくロイは立ち上がって向かいのパトリックの両肩を掴み掛かった。
「でかしたぞ、若先生。ようやく餌に食いついた」
キャロルは後ろファルマンと顔を見合わせる。部下でもない男に向かって、でかしたというのはどうなのだろうか。同じように思っていたのか、ファルマンは軽く頭を振って答えてくれた。
「何だ、偉そうに! 大体、おまえは一体誰なんだ? 僕はマスタング中佐とやらに話を」
パトリックは一気に言い募る。憤懣やるかたなし、といったところが爆発したようだった。が、その勢いに構わず平然としてロイが答える。
「ああ、私だ」
「はあ!?」
「ロイ・マスタング中佐。うちらの指揮官だよ」
勢いを殺さず返してきたパトリックに、慌ててキャロルが答える。
「このガキが!?」
「ガキ……?」
さすがに苛立ったようで、パトリックの肩を掴んでいる手に力が入っているのが見て分かる。パトリックの顔に苦痛が浮かんでくるのが見えて、慌ててロイの腕を掴んで引いた。素直にソファへ沈んでくれて、安堵する。
「一応、二十歳超えてるんですけどね……」
呟いたファルマンも、珍しく憤っているようだった。まあ、確かに上官が子供扱いをされて喜ぶ部下もいない。
「二十四だ」
付け足すようにロイが言うと、パトリックは大袈裟なくらいに驚く。
「同い年!?」
同期だが、年齢はまちまちだ。そういえば、病院研修中に最年長はキャロルより八つ上だと聞いたことがあった。彼のことだったらしい。
「それもそれで見えないね、パトリック先生」
明らかにロイよりもだいぶ年上にしか見えない。彼が若く見えるということを差し引いても、実年齢通りの容貌ではない。眼鏡のせいかとも思ったが、そういえば眼鏡をかけた同年代の軍人が知り合いにいた。彼よりも年上に見えるわけだから、眼鏡のせいではないらしい。
「老け顔だな、若先生」
「うるさい、若作り」
小声で応酬する二人に、キャロルとファルマンは同時にため息をつく。
「やめなよ……不毛だよ」
ぼそぼそと互いを貶し合う年上の男どもに、キャロルはすっかり呆れ返ってしまった。
#鋼の錬金術師 #-其の錬金術師は夜に歌う