第二話:1

 夢か、記憶の奥底か。判別はつかない|朧《おぼろ》げな世界で、小さな私は待っていた。ただ一人、真実を教えてくれた尊い人のことを、心待ちにしていた。それがどこであったか、いつのことであったかは、はっきりとしない。
メグ
 やがて、彼女はどこからともなく現れて、得意気な顔をして私の名を呼んだ。
「|従姉様《ねえさま》……」
 小さな私は、彼女の顔に|怖《お》じ|気《け》づいていた。彼女は真実を教えてくれたけれど、ただそれだけではなかった。けれど、その時の私にとって、彼女は全てだった。
「ちゃんと持ってきた?」
「ごめんなさい。父様がしまっていて、私には分からなかった」
「そう。まあ、元より期待なんかしていなかったけど」
 あからさまにがっかりとした表情になった彼女に、慌てて話題を突きつける。
「あ、あのね、従姉様! 今度、オズウェルのおじさまのところに新しいご養子が来るらしいの。私と同じくらいの歳だって、父様が言ってた」
「ふうん」
 それでも興味なげな彼女の気を引くため、私はもうひと頑張りをして情報を探った。何か、なかったか。
「ウィンドルの……ナントカって領地の領主子息だって」
「ウィンドルの?」
 俄に彼女の顔色が変わる。
「そう。従姉様はウィンドルってご存知? 私はよく分からなくて」
 嬉しくなって畳み掛けると、彼女は真剣なまなざしをして訊ねてきた。
「どこの領地なのかしら」
「ええとね……ナントカ……そうだ、ラント。ラント領だって」
「へえ……ラントか。確か、あそこには|煇石《クリアス》源があったわね」
「煇石源?」
 話の意図が掴めず、小さな私は首を傾げた。そこへ、彼女はつけ込んでくる。
「あなた、それは使えるわよ。どうにかして取り入って、オズウェルの腹の中明かしてやりなさい」
 予想外の言葉に、狼狽える。
「ど、どういうこと?」
「いいことを教えてあげるわ。叔母様を殺したのは、オズウェルよ」
「えっ!? で、でも……母様は……」
 首を振る私に、彼女は心底嫌そうな顔をした。
「何よ、私の言う事が聞けないっていうの? あなたの母様のことだって教えてあげたのは、私よ」
「う、うん……分かってるわ、従姉様」
 そう言われると頷く他なくなる。小さな私は素直に従ってしまった。
「その子供を手懐けて、オズウェルの情報を探らせるの。そうしたら、あなたは自分の手を汚さずにオズウェルの情報を手に入れることができる。いい話でしょ?」
「でも……そうしたら、養子の子が可哀想じゃない」
「オズウェルは人殺しよ。私たちの仇。そんな家に入ろうって養子がマトモなはずないでしょ。構わないじゃない」
「う、うん……」
 今考えれば無茶苦茶な理屈だ。けれど、その時の私は至極尤もであると考えた。オズウェルのおじさまは、お優しいけれど何か隠している。幼かった私にも、それくらいは感じ取れていた。そのおじさまが迎え入れる養子というのがどこの誰であるか、ウィンドルのラント領主子息だなんてよっぽどだ。きっと、今までの養子たちとは違って育てる算段くらいつけているはずだ。
 それを奪ったら、おじさまはどうするのだろうか。
「まあ、どんくさいあなたに何ができるとは期待してないけど。せいぜい頑張って」
 朧げな中に消えて行く彼女の顔は、どんなだったろうか。思い出せない。これは記憶の奥底か、夢の中か。


#TOG #-第二話
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