#TOX #アルヴィン
「寝てる?」
被っていた毛布を剥ぎ取られ、訊かれた。もう、別に訊いちゃいないだろう。寝ているかどうか訊ねているわけじゃなくて、起きろと命令しているだけだ。だが、実際眠っていたわけでもなく、ゆるゆると起き上がる。こういうことがあるから、なるべく同室で宿を取ることは避けていたのだが。
「何だよ」
まるで今まで熟睡していたように目をこすって訊ねる。幾分不機嫌そうな、というか焦っているような顔があった。
「ちょっと」
言葉短にそれだけ言って、無遠慮に毛布をまさぐる。さすがにそれは慌てて止める。
「何なんだよ。添い寝がご所望?」
「バカ、違うよ! ちょっと、探してて」
珍しく真面目に返したな、と若干がっかりしていると、手を引かれる。
「もしかしたら、シーツに巻き込んだかも」
「何なくしたの、リリア」
仕方なく立ち上がると、彼女はあからさまに顔をしかめる。
「はいはい、言いたくないのな」
「うるさいな。勝手に探すから放っといてよ」
乱暴に放り投げられて、暫く手持ち無沙汰に彼女の後ろ姿を眺めていた。が、どうにも退屈だし、居心地も悪い。
「手伝うよ。何とは言わなくていいから、どんくらいの物かだけ教えてくれ」
シーツをひっくり返そうとしたリリアの腕を掴むと、彼女は動きを止めた。意地は張っているんだろうが、張り続けていいような時間でもないのは分かっているらしい。少しだけ間をおいてから、ぽつりと答える。
「こんくらいの、チェーンに引っ掛けてる」
リリアが指で作った輪がチェーンの大きさらしい。彼女の首にちょうど引っかかるくらいだろうか。探しているのは、そのチェーンに括られている物らしいが、それは伏せておきたいらしい。
「分かった。チェーン探せばいいんだな」
「そう」
普通、ここはお礼とか言うもんだろ、と返そうとしてやめた。ちょうどリリアが膝をついているあたり、ベッドの下に一瞬だけ光るものを見てしまったからだ。彼女の足を押してどかし、ベッドの下をまさぐる。
「何やってんの、アル」
「お、あった」
指先の冷たい感触を掴み、引っ張り出す。ちょうどリリアが示したくらいの大きさのチェーンだ。先についているのは、
「何だこれ? 子供用のおもちゃか?」
まじまじと見ていると、引ったくるようにして奪われた。
「何でもない!」
言い訳にしても苦しいだろう。そもそも見つけた時点で割としっかり見えてしまった。
まだ子供の頃、露店で売っていたおもちゃの指輪だ。もう家には戻れないと毎日泣いていた頃のリリアーナを慰めるために買ってやったやつだった。別に彼女が欲しがったわけじゃない、ただの押しつけだと思っていた。今考えるとだいぶ不器用だが、当時は精一杯の慰めだと考えていたのだろう。
「まさか、まだ持ってたのかよ」
呆れ半分でつぶやき、俯いたままの彼女を見下ろすように立ち上がった。
「たぶん、ずっと持ってるよ」
俯いたまま答えたリリアは、すぐに立ち上がってこちらを睨みつけてくる。おもちゃの指輪が掛かったチェーンを見せつけながら。
「アルがくれたからね」
それだけ言うと、やけに大股で部屋のドアへと向かっていく。
「何だよ、どこ行くんだ?」
「一杯だけ飲んでから寝る」
不機嫌に背中を向けたまま答えたリリアは、そのまま乱暴にドアを開けて出ていってしまった。
「一体、何年持ってんだよ、あれ……」
ベッドに座り込んで呟くと、なんだか力が抜ける。さっきのリリアの言葉を無意識に反芻しては振り払った。
「寝てる?」
被っていた毛布を剥ぎ取られ、訊かれた。もう、別に訊いちゃいないだろう。寝ているかどうか訊ねているわけじゃなくて、起きろと命令しているだけだ。だが、実際眠っていたわけでもなく、ゆるゆると起き上がる。こういうことがあるから、なるべく同室で宿を取ることは避けていたのだが。
「何だよ」
まるで今まで熟睡していたように目をこすって訊ねる。幾分不機嫌そうな、というか焦っているような顔があった。
「ちょっと」
言葉短にそれだけ言って、無遠慮に毛布をまさぐる。さすがにそれは慌てて止める。
「何なんだよ。添い寝がご所望?」
「バカ、違うよ! ちょっと、探してて」
珍しく真面目に返したな、と若干がっかりしていると、手を引かれる。
「もしかしたら、シーツに巻き込んだかも」
「何なくしたの、リリア」
仕方なく立ち上がると、彼女はあからさまに顔をしかめる。
「はいはい、言いたくないのな」
「うるさいな。勝手に探すから放っといてよ」
乱暴に放り投げられて、暫く手持ち無沙汰に彼女の後ろ姿を眺めていた。が、どうにも退屈だし、居心地も悪い。
「手伝うよ。何とは言わなくていいから、どんくらいの物かだけ教えてくれ」
シーツをひっくり返そうとしたリリアの腕を掴むと、彼女は動きを止めた。意地は張っているんだろうが、張り続けていいような時間でもないのは分かっているらしい。少しだけ間をおいてから、ぽつりと答える。
「こんくらいの、チェーンに引っ掛けてる」
リリアが指で作った輪がチェーンの大きさらしい。彼女の首にちょうど引っかかるくらいだろうか。探しているのは、そのチェーンに括られている物らしいが、それは伏せておきたいらしい。
「分かった。チェーン探せばいいんだな」
「そう」
普通、ここはお礼とか言うもんだろ、と返そうとしてやめた。ちょうどリリアが膝をついているあたり、ベッドの下に一瞬だけ光るものを見てしまったからだ。彼女の足を押してどかし、ベッドの下をまさぐる。
「何やってんの、アル」
「お、あった」
指先の冷たい感触を掴み、引っ張り出す。ちょうどリリアが示したくらいの大きさのチェーンだ。先についているのは、
「何だこれ? 子供用のおもちゃか?」
まじまじと見ていると、引ったくるようにして奪われた。
「何でもない!」
言い訳にしても苦しいだろう。そもそも見つけた時点で割としっかり見えてしまった。
まだ子供の頃、露店で売っていたおもちゃの指輪だ。もう家には戻れないと毎日泣いていた頃のリリアーナを慰めるために買ってやったやつだった。別に彼女が欲しがったわけじゃない、ただの押しつけだと思っていた。今考えるとだいぶ不器用だが、当時は精一杯の慰めだと考えていたのだろう。
「まさか、まだ持ってたのかよ」
呆れ半分でつぶやき、俯いたままの彼女を見下ろすように立ち上がった。
「たぶん、ずっと持ってるよ」
俯いたまま答えたリリアは、すぐに立ち上がってこちらを睨みつけてくる。おもちゃの指輪が掛かったチェーンを見せつけながら。
「アルがくれたからね」
それだけ言うと、やけに大股で部屋のドアへと向かっていく。
「何だよ、どこ行くんだ?」
「一杯だけ飲んでから寝る」
不機嫌に背中を向けたまま答えたリリアは、そのまま乱暴にドアを開けて出ていってしまった。
「一体、何年持ってんだよ、あれ……」
ベッドに座り込んで呟くと、なんだか力が抜ける。さっきのリリアの言葉を無意識に反芻しては振り払った。